経営者は恐れよ!しかし怖れるべからず!されど畏れられよ!
経営者が心に刻むべき、三つの「おそれ」について
経営という名の航海の羅針盤を託された皆様へ。
渡瀬です。
本日は、優れたリーダーがその内面に持つべき、三つの重要な心構えについてお話ししたいと思います。それは、健全な「恐れ」、乗り越えるべき「怖れ」、そして目指すべき「畏れ」です。この三つの「おそれ」の真意を深く理解し、自らの哲学として昇華させることが、不確実な時代を乗り越え、企業を更なる高みへと導く礎となるでしょう。
第一の心構え:市場への健全な「恐れ」を忘れない
第一に、経営者は常に市場に対して健全な「恐れ」を忘れてはなりません。
ここで言う「恐れ」とは、市場、顧客、技術といった、自社のコントロールが及ばない外部環境の偉大さと変化の速さに対する謙虚な認識を意味します。
「我が社は盤石だ」「この成功は揺るがない」といった自己満足は、最も危険な兆候です。市場は常に静かに、しかしダイナミックに変化し続けています。顧客の価値観は多様化し、昨日までの常識は、明日にはもう通用しないかもしれません。
この健全な「恐れ」は、環境変化を敏感に察知するセンサーとして機能します。それは、私たちから驕りをなくし、常に学び、備え、行動することを促す原動力となります。あらゆる可能性を冷静に分析し、先手を打って対策を講じ続ける。その真摯な姿勢こそが、企業の持続的な成長を支えるのです。
第二の心構え:内なる「怖れ」に打ち克つ勇気を持つ
第二に、行動をためらわせる内なる「怖れ」を克服することです。
第一の「恐れ」が外部に向けた冷静な危機感であるのに対し、ここで言う「怖れ」は、自らの内面に生まれる、変化や失敗に対する臆病な心です。
リスクを過度に評価するあまり決断ができない。未知の領域への挑戦を避けてしまう。こうした「怖れ」に支配された時、組織の成長は止まります。それは、最も避けなければならない事態です。
では、どうすればこの「怖れ」を乗り越えられるのでしょうか。
その鍵は、徹底した準備に裏打ちされた「覚悟」にあります。「人事を尽くして天命を待つ」という言葉の通り、考えうる限りの分析と準備を尽くしたのなら、最後は自らのビジョンを信じ、勇気を持って一歩を踏み出すしかありません。徹底的に市場を「恐れ」、準備を重ねたからこそ、確固たる自信を持って「怖れ」に立ち向かうことができるのです。
第三の心構え:深い「畏れ」を抱かれる存在であること
そして最後に、最も重要なのが、社員や社会から深い「畏れ」、すなわち「畏敬の念」を抱かれる存在であることです。
これは、恐怖で人を支配することとは全く異なります。仲間意識だけの組織では、困難な時代の荒波は越えられません。経営者は時に、組織の未来のために、痛みを伴う非情な決断を下さなければならない場面に直面します。
しかし、その決断の根底に、組織の未来と人々の生活を守るという揺るぎない使命感と、首尾一貫した哲学が存在するならば、その決断は必ず理解され、リーダーへの信頼は揺らぎません。
「あの方のビジョンには、困難な決断さえも納得させる力がある」 「あのリーダーシップの下で働けることに誇りを感じる」
そう思われるような、人間的な魅力と確固たる哲学を兼ね備えたリーダーシップ。その源泉は、圧倒的な知見と経験、いかなる時もブレない誠実さ、そして未来を創造する情熱です。
この「畏敬の念」こそが、組織の求心力となり、人々を惹きつけ、企業の永続的な価値を創造していくのです。
結びとして
この三つの心構えは、優れたリーダーシップの礎であると同時に、顧客の心を捉え、市場を動かすマーケティング戦略の策定と展開においても、極めて重要な指針となります。
- 市場への謙虚な「恐れ」を持ち、常に備えよ。
- 周到な準備を自信に変え、内なる「怖れ」を克服せよ。
- そして、その誠実な姿勢と哲学で、人々から深い「畏れ」を抱かれるリーダーであれ。
皆様のビジネスが、この哲学を通じて一層輝きを増すことを心より願っております。
マーケティングコンサルタント 渡瀬吉朗